いわしのマリネ(酢締め)をする前に塩漬けする

イタリヤやスペインでは、いわしを酢漬けのマリネにして保存します。この時、頭と内臓を取ったいわしをマリネをする前に、塩漬けするのが特徴となっています。
この作業により、いわしの身をがしっかり締まります。
具体的、先に塩漬けするメリットととしては
①塩で水分が除かれる(浸透圧)
②塩と酢の効果により、タンパク質が固まりやすくなる
③魚自身が持っているタンパク質分解酵素を抑える
になります。


①塩で水分が除かれる。
魚のタンパク質は水分にとけて分散しているので、水分を除いてタンパク質間の水を少なくしておきます。これにより、酢につけた時に、タンパク質同士が凝縮して固まりやすくなります

塩があることで、酢がタンパク質を変性させる環境をつく出す。
魚の主要タンパク質である筋原線維タンパク質(ミオシン)は、塩が存在するかしないかで、酢に対する性質が変わります。
●塩が存在しない場合、pH4~7.5では溶けにくく、pH4以下で溶けやすく(柔らかく)なります
塩が存在する場合、pH5.5以下では溶けにくく、pH5.5以上で溶けやすくなります

酢はpH2.5なので、酢を水で割っても、その漬け汁はpH4以下の場合がほとんどです。つまり、塩をしていればミオシンは溶けずに、酢に含まれる酸によって変性して固まることができます。

③塩により魚に含まれているタンパク質分解酵素(酸性プロテアーゼ)の働きを抑える。
この酵素はpH3~4の酸性下ではたらき、自らの筋原線維タンパク質を分解します。通常、魚の筋肉はpH5.6~6なのでこの酵素は働きませんが、酢につけて酸性になれば働きだし、自らのタンパク質を分解しはじめるので、身がやわらかくなる。しかし、この時塩分濃度が高いと酸性プロテアーゼの働きを抑えることができます。
塩漬けしてから酢につけることで、この酵素がわずかにはたらき、かたさの中にもややもろい歯切れの良さがでます。

【まとめ】
塩漬けすることで水分を抜き、タンパク質が固まりやすい状態にする。
次に酢につけ、魚の表面のタンパク質を酸で変性させて固める。この時、魚の表面の塩分は酢で少し薄まるので、酸性プロテアーゼがわずかに働き出して、タンパク質が少しだけ分解され、かたくなった身がややもろくなります。これにより、マリネ独特の歯切れのよい食感が生まれる

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参考文献 西洋料理のコツ うまさのサイエンス